妻の出産に立ち会った記録【誘発分娩、緊急帝王切開、NICU入院、退院まで】

はじめに

2018年8月。出産予定日を一週間ほど過ぎた妻でしたが陣痛が来る様子はなく、入院して陣痛促進剤などの投与を行う誘発分娩となりました。

出産に立ち会ったと言っても、夫である私にできることはほとんど何もなく、ただオロオロとする他はありませんでしたが、その時の様子や心情をメモしましたのでここに残します。メモを取り始めた時はこんなに長くなるとは思っていませんでしたが。。

怖いのと痛いのが大の苦手である妻が、命がけで出産に臨んだその勇気と覚悟に心から敬意を持ちました。本当にありがとう。

妻の出産に立ち会った記録

2018年8月29日

0900
家を出て病院に向かう。
家を出る前に妻が少し動悸がするとのことだったので少し横になって様子を見る。幸い動悸はすぐに収まったらしい。緊張もあるのだろう。当然だ。

0930
病院到着。
入院の手続きをする。思ったよりすぐ終わり10時まで待つことに。
とても緊張している妻。かわいそうに。

1000
病室(陣痛室)に移動する。準備して来たいくつかの書類を提出する。
妻は着替え、体重測定、体温測定を指示通り行なっている。
助産師さんは手慣れた様子でてきぱきしてる。

1020
子宮口を開くためのバルーンを入れる処置を行う。
私は陣痛室に残る。
わかってはいたが男にできることはなにもない。ただ待つのみ。
妻、怖いだろうな。

1030
隣の部屋から赤ちゃんの声が聞こえる。もう少しで自分たちのところにも赤ちゃんが来てくれるのだろうか。

1040
処置の終わった妻が戻ってきた。
涙目になっている。痛かったらしい。かわいそうに。

モニターをつけて赤ちゃんの様子を見てもらう。
以前、検診の時にもつけたことのあるモニター。左の数字が赤ちゃんの心拍数。右の数値が上がると陣痛がきているということらしい。

入院についての説明を受ける。今日は特に陣痛促進剤の点滴は行わずに、ただ陣痛を待つのみとのこと。
明日以降、様子を見て陣痛促進剤の点滴を始めるらしい。

旦那さんは帰った方がいいですよと言われる。確かにやることはなにもない。
しかし、すごく不安そうな妻をおいて帰るのは気が引ける。もう少し一緒にいよう。

1120
モニターをはずしてもらう。
あとはただ待つのみ。

1200
妻いわく、まだ痛い感じはないらしい。

まだまだ先は長そうなので、私は一度帰ることに。家から病院までは自転車で通うことができる距離なのでよかった。

今後に備えて仮眠をとる。

1800
果物の差し入れをもって再び病室に。とても元気そう。
なかなかお産が進行しないため、結局促進剤を投与し、それも終わったとのこと。
明日また促進剤を入れる必要があるため妻の腕には点滴の針が刺さったまま。必要なこととはいえかわいそう。

1820
夕食がくる。あまり食欲がないとのことだが、食べて体力をつけておかないと今後持たなくなるだろう。無理して口に押し込んでいる。

1900
もし夜中にお腹が空いたときのためにお菓子と飲み物を買う。陣痛室と違う階にある売店には妻は行ってはいけないと言われたので、私一人で行く。

2000
今日は恐らく陣痛は来ないだろうということで、私は家に帰ることに。

2100
妻からLINEがある。出産間近の妊婦さんが運ばれてきてなんとたった10分で赤ちゃんが産まれたとのこと。びっくりするやら怖がるやら。

結局この日は陣痛来ず、それでもあまり寝れなかったらしい。一晩中出産直前の妊婦さんが運ばれて来る陣痛室でゆっくり寝れるわけがないよな。

2018年8月30日

0900
とても暑い日だ。
再び果物の差し入れをもって病院に行く。
病室に着くとモニターを付けられた妻が。
ドクターから説明を受ける。
陣痛は少し始まっているらしい。
モニターを見ていると赤ちゃんの心拍が時々弱めの時がある。心配だ。
今日軽めの促進剤を投与するが、赤ちゃんの心拍が落ちた場合に備えて帝王切開の準備もしたい、と助産師さんから説明を受ける。

0945
帝王切開前に必要な検査、採血、心電図、レントゲンをとる。

1020
部屋に戻って再びモニターをつける。

1040
いつもとほとんど変わらない妻の様子に、このまま何も起こらないのではないかという気になってくる。

1100

促進剤の投与を開始。
すごく緊張している妻。痛みがくるとわかっている点滴を始めるのはとても怖いことだろう。
持ってきた果物を食べる?と聞いても食欲がないとのこと。

1120
今日はお昼を抜くことに。
陣痛が始まったときに満腹だとまずいとのことから。

今のうちに私はお昼を食べることに。

1200
陣痛が始まる。
数分に一度顔をしかめるくらいの痛みがあるとのこと。

1400
あと一時間ほどで点滴が終わる。その後様子を見て以降の処置を検討したいとドクターに言われる。

もし今日お産にならなかった場合はどうなるのか尋ねたところ、明日は違う種類の点滴をし、それでダメなら帝王切開を検討するらしい。

不安や痛みに耐えながら、24時間他の妊婦さんの呻き声や赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。
しかもここは彼女にとって外国の病院。私以外の家族も近くにいない。
この環境に何日もいなければならない妻の精神力が保つのだろうか。私に何かできることはないのだろうか。

1500
点滴終了。
陣痛は続いている。妻の顔から余裕がなくなっている。

1530
先生の診察。
もしかしたら破水がはじまったかも?と妻が言うので検査をするも破水ではなかったらしい。
シャワーを浴びても大丈夫とのことなので今のうちにシャワー室を使う妻。とても涼しい部屋にいるのにすごく汗をかいている。

1700
陣痛はおさまったみたい。
残念ながら今日はお産は進まなかったらしい。

1730
私は家に帰り洗濯などをする。
普段妻が家にいるときは料理するのだが、全く何か作る気が起きない。
一人は寂しい。ましてや妻はこの入院期間中どんなに寂しいだろう。

1800
妻からLINE
「破水したかも。助産師さんに見てもらったら破水じゃないと言われた。でも破水な気がする」
「初めてのことだから私たちにはわからない。助産師さんたちプロを信じよう」と返信する。

2030
妻からLINE
隣の妊婦さんが痛みのあまり叫んでいて怖いのだけど、自分はモニター中だから動けないとのこと。
ヘッドフォンをしても叫び声が聞こえてくる、怖くて仕方ないらしい。
やはり精神的に疲弊しているのだろう。帰らずに一緒にいてあげるべきだったか。

2100
妻と電話で話す。
最初はもう病院は嫌だ、家にいたい帰りたいと言っていたが、徐々に落ち着きを取り戻す。
ドクターたちは妻と赤ちゃんの健康を最優先に、これが最善の方法だと考えてやっているんだよ、と声をかける。これは本心ではあるが、妻にとって今相応しい言葉かどうかはわからない。

2018年8月31日
0830
病院に向かう。

0900
すでに点滴がはじまっている。

1000
誘発分娩についてネットで情報を見る。
4〜5日待って陣痛来ず帝王切開なんて例もあるのか。とても今の妻に伝えられることではない。

1045
売店から戻るとソナーで検査されている。
羊水の量を確認しているとのこと。

1100
ドクターから説明を受ける。今の点滴でもし陣痛が進まなければ帝王切開の可能性が高くなる。または、子宮口を広げる処置を再び行い土日を待って様子を見る。
赤ちゃんが疲れてきたら帝王切開を行う。いずれにせよ4日後には42週となるのでその前には帝王切開を行う。

1130
妻が顔をしかめるくらい痛がっている。
点滴が効いてきたようだ。

1200
妻いわく過去最悪の生理痛よりはるかに痛いとのこと。
促進剤投与のために朝六時から何も食べてない妻。とてもお昼ご飯を食べる気力があるようには思えない。

1220
私もとてもお昼ご飯を食べる気分じゃない。それでも私を安心させるために何か食べてとお菓子を勧めてくる妻。助産師さんがくるたびに赤ちゃんは大丈夫かと尋ねる妻。痛みの最中でも助産師さんに必ずお礼をいう妻。自分が人生最大の苦痛に襲われている最中に他人を気遣うその様子に、心の底から妻は偉大だと思う。この人と結婚したのは間違いではなかった。

1240
午前中とはまったく違う、ものすごい痛みに耐えている妻。
私は何もできない。早く終わってくれないのか。これがいつまで続くのか。

1300
助産師さんに言われ結局私はお昼ご飯を食べることに。
痛がる妻をおいて行くのはとても心苦しい。しかし、私が体調崩しても仕方ない。

1330
病室に戻る。変わらず痛みに耐えている妻。腰を押さえて欲しいと言ったり、今は触らないでと言ったり。どのような痛みなのか私には全く想像ができない。
妻と一緒に呼吸をして長くゆっくり息を吐く。

1430
ますます痛みが強くなる妻。
これに後何時間も耐えなくてはいけないのか。

1520
赤ちゃんの心拍が落ちている。大丈夫なのか。

1530
突然ドクターや助産師さんが何人か部屋に入ってくる。
何やら話し合っては動き回っている。
ドクターから、赤ちゃんが陣痛に耐えられなそうなので帝王切開をすることにします、と告げられる。室内の空気が一転したのがわかる。たくさんの人がせわしなく動き出す。

今手術室の準備と手術スタッフの手配を緊急で行なっているとのこと。

麻酔医の若い先生と話す。これまでの妻の病歴やアレルギーを質問され、麻酔によって起こり得るリスクを説明される。とても英語の上手な先生だった。手術の同意書、麻酔の同意書、術後の計画書など、たくさんの書類にサインをする。正直内容は頭に入ってこない。
いつの間にか妻に酸素マスクがつけられている。
妻にきつめの靴下が穿かされる。
妻の体にアクセサリーなどの金属がつけられていないかチェックされている。

1540
みんながあわただしい。
妻の手が緊張で冷たい。大丈夫だよと声をかけることしかできない。

1550
妻がベットごと移動。大きいエレベーターに乗せられて手術室へ。私も立ち会えるものだと思っていたが、旦那さんはこちらでお待ちください、と小さな部屋を案内される。私のことには1秒だって時間を使って欲しくない、どうか、妻と赤ちゃんを助けてください。

1600
控え室で一人待つ。
ただ待つ時間のなんと長いことか。
お願いします。無事に終わってください。

1630
なにも手につかない。
誰にも連絡する気が起きない。
嫌なことばかり頭に浮かぶ。
しっかりしろ、一番大変なのはお前じゃない。
父親になるんだろ。

1640
空耳だろうか、赤ちゃんの泣き声が聞こえた気がして回りをうろうろする。

1650
執刀医の先生が待合室に来る。
赤ちゃんは先ほど生まれた。ただ、生まれたとき自分で息をしておらずぐったりしていた。一度心臓が止まったらしい。すぐに吸引を行なったところ血を飲んでいたようで、その後は自分で呼吸を始めた。念のため呼吸器をつけている。妻のお腹から出て来るときに血を飲んでしまったのか、それともお腹の中にいるときから異常があったのかは調べてみないとわからない。そのためNICUのある近くの病院に搬送する。

心臓がバクバクして何も考えられない頭で「妻は大丈夫ですか」とだけ聞いた。奥さんには今のところ異常はない、麻酔で眠っていると思う。とのことだった。

1700
再び部屋で待つ。
落ち着け。私が焦っても何もならない。

赤ちゃんは助かるのだろうか。助かっても障害が残ったりするのだろうか。

どんな結果になっても、どっちかが死ぬまで絶対一緒にいてやる。

妻のことも気になる。赤ちゃんに会えたのだろうか。動かない赤ちゃんを見て絶望しているんじゃないだろうか。

1715
ケースに入れられた赤ちゃんに会う。
目を開けてる、動いてる、息をしている、泣いていない、女の子だ、小さい、こんなに小さいのにたくさんの管に繋がれてる。
会った瞬間涙が止まらない。悲しいのか嬉しいのか感動しているのかわからない。ただ「かわいそう」と口から出た。

ケースには両手が入る穴が空いていて、そこから助産師さんが手を入れて風船のような袋を押している。おそらく赤ちゃんの呼吸をサポートしているのだろう。

赤ちゃんは本当にがんばったのだろう。こんなに小さい体なのに、呼吸ができなくても諦めなかった。お父さんもお母さんもがんばるからな。

助産師さんに写真を撮ってください、と言われる。まさかこれが娘を撮る最初で最後の写真になるんじゃないだろうな。動画も撮った。

1730
妻に会う。起きている。泣いている。かなり取り乱している。
赤ちゃんは大丈夫だよ、自分で息をしているよ、と伝えるも、生まれたとき赤ちゃんは泣かなかった、嘘をつかないで、本当のことを言って、とそればかり繰り返す。

1740
娘のところに向かう。
変わらず動いている。泣きそうな顔をしているが声を上げてはいない。助産師さんに「泣かないんですか」と尋ねると、呼吸器をつけているから声は出せないんですとのこと。
生まれたのは16時29分。体重は2390g。助産師さんが教えてくれた。やっぱり少し小さかったんだ。

1750
救急隊の方、別の病院のドクターの方が来る。
ストレッチャーにのせられた娘と救急車に向かう。途中妻の病室の前に立ち寄ってもらう。起き上がれない妻のためにベッドを動かしてもらい、少しだけだが動いている娘を見せることができた。

動けないはずなのに赤ちゃんのところに行こうとする妻。ただただ泣く妻。

大丈夫だよ、赤ちゃん元気に動いているよ。ただ少し検査をしないといけないから機材の揃っている別の病院に行って来るね。できる限りの笑顔でそう伝える。

妻に赤ちゃんを見せるために色々手配して下さったみなさんに心から感謝する。そして、その時間を取る余裕があることに少しだけ安心した。

妻のplease save herが耳に残っている。

1800
救急車に乗って別の病院へ向かう。
初めて乗る救急車が産まれたばかりの自分の子供のためになるとは。
かわいそうに、生まれてすぐ救急車に乗せられるなんて。

1815
病院に到着。
赤ちゃんはうにうにと動いている。見る限りでは元気そうにも見える。ドクターの話からすると緊迫した様子はなさそう。
しばらく廊下のソファで待っているように言われる。

1830
妻にLINEを送る。娘の写真と動画を送る。
返ってきたスタンプに少し癒される。

1845
実家に電話する。がんばれと言われる。
そうだよ、お前だけ無事なんだから限界までがんばれ。

1900
もうすぐ1時間経つ。まだ呼ばれない。すべての足音に敏感になっている。

1915
看護師さんに声をかけられる。
入院の手続きなどをする。看護師さんが赤ちゃんは大丈夫ですよと言ってくれる。

2000
娘に会う。
どうやら寝ているらしい。呼吸器や点滴の管が痛々しい。かわいそう。
しかし、心拍も血中の酸素濃度もすべて問題ないと看護師さんが言ってくれた。
すでにいくつかの検査は終わっていて、後程ドクターが説明してくれるとのこと。

時々目を開けて口をパクパクしている娘。すごく小さいのにこの存在感はなんだろう。目が反らせない。

まだ、娘の声は聞けていない。

2100
ドクターから説明を受ける。
検査の結果は特に異常なし。経過を見るためと他の検査のため1~2週間の入院が必要とのこと。今後行う処置についても詳しく説明していただく。
呼吸器はもう付けなくても大丈夫となので外したとのこと。赤ちゃんにたくさん付いていた管が1つでも減るのは本当に嬉しい。
ありがとうございます、よろしくお願いしますと何度も繰り返す。
説明を受けたあとまた赤ちゃんに会う。呼吸器を外してもらった赤ちゃんは口元がスッキリしていて表情がよくわかるようになっていた。小さく真っ赤な口がとてもかわいい。

2120
妻に赤ちゃんの動画や写真を送り、ドクターの説明を伝える。赤ちゃんにまだちゃんと会えていない妻。どんなに不安なことだろうか。

2145
妻のいる病院に。すでに面会時間は過ぎていたが、救急窓口のおじさんは事情を知っていて入れてくれた。すでに消灯時間だったが看護師さんたちも病室まで案内してくれた。
少しだけ妻と話せた。かわいそうに、手術を受けて、赤ちゃんに会えず、その狼狽ぶりは見るに耐えない。麻酔の混乱のためか、言葉の壁のためか、赤ちゃんが自分のところに来ないということは赤ちゃんは死んだと思っていたようだ。
ゆっくり説明してあげる。笑顔でいるように努める。赤ちゃんの動画や写真を見ているうちに少し落ち着いたようだ。
ただ赤ちゃんに会いたい、とそればかり。

2230
家に帰る。
とんでもなく長く早い一日だった。いろんな事がすごいスピードで起こるので何度かこれは夢なんじゃないかと感じたが、紛れもない現実だ。今日私は父になった。そして妻と娘は別の病院にいてまだ会えていない。

2018年9月1日
0500
妻からLINEが来て目が覚める。見ると3時にもメッセージが来ている。
寝れないのであろう。陣痛に耐えた後の帝王切開で体力など残っているはずのない妻なのに、娘が心配で不安で仕方がないに違いない。

0600
妻からのメッセージの内容がかなりネガティブなものになっている。
かなり取り乱している様子。3日間の入院、陣痛、緊急帝王切開とこれ以上なく心身ともにダメージを受けた上に、自分が産んだ娘は違う病院におり、自分は動くことができない。普通でいられる方がおかしい。

0720
娘のいる病院に面会に行く。妻のことも気になるが、今この瞬間、娘になにか起こっているんじゃないかと考えると気が気じゃない。
幸い娘は何事もなく経過は順調だった。
娘をだっこしてもいいとのこと。恐る恐るだっこする。ぼんやりとこっちを見ている。今更ながらこの子が妻のお腹の中にいたのかと思う。9ヶ月の間想像していたどの顔とも違う。でもただただ愛おしい。
お母さんが来れなくてごめんな、会いたいよな。お母さんも会いたくて仕方ないんだけどまだ来れないんだよ、ごめんな。
抱っこに慣れていないためか腕が痛くなったけどずっと抱いていた。

0830
妻の様子を見に行く。
まるで生気がない。疲れているのか、眠いのか、話しかけても虚ろな目をしている。
心配で不安で痛くて怖くて、心が限界なのだろう。とても見ていられない。

寝たようなので私も一度家に帰る。

1100
また妻のところへ行く。少しだけ元気になっていた。なんと立ち上がる練習をしている。自分で立って歩けないと娘の病院に面会にいけないからだ。痛み止めが効いているとはいえ、まだ体は思うように動かないようだ。
簡単な流動食を飲むことができた。昨日の朝から何も食べていない妻。少しでも元気が出ることを願う。
まだ話す内容はネガティブなことが多いが、話しているうちに少し落ち着いてきた気がする。

1330
お昼を食べて再び娘の病院に。妻は私に「できるだけ娘といてあげて」と言った。

1400
娘の寝ているベッドが変わっていた。娘を囲んでいる機材が少なくなっていて、体温を保つためのヒーターも無くなっていた。それらは無くても大丈夫と判断されたのだろう。今日、少し泣いたらしい。とても安心する。
娘を抱っこしていると、ミルクをあげてみますか?と助産師さんに聞かれる。思わず「飲めるんですか?」と聞き返す。ミルクは口に入っている管から流し込むものだと思っていた。
妻より先に娘にミルクをあげることになったのは少し複雑だが、一生懸命ミルクを飲む娘はものすごく可愛い。昨日生死の境を彷徨った娘が今自分の力でミルクを飲んでいることに心の底から安堵する。

このNICUには娘よりも小さな赤ちゃんがたくさんいる。信じられないくらい小さな体で必死にがんばっている。娘は2390gと決して大きくはないがこの部屋の中では大きい方だ。娘を抱っこでき、ミルクをあげることができる自分はまだ恵まれているのだろう。この部屋にいる赤ちゃんが全員無事成長できることを心から願う。

1600
NICUの中では携帯はオフにしなくてはならない。外に出て携帯をオンにすると妻からすごい数のメッセージが。私から返事がこないことが心配で仕方ないらしい。かわいそうだと思ったがNICUの中でのルールは守らなくてはならない。すぐに返信する。娘に何事もないこと、自分でミルクを飲めたことを伝える。

1630
また妻のいる病院に向かう。朝に比べるとかなり様子も良くなって落ち着いてきたようだ。かなり痛そうだが、自分で歩くことができるようになっている。食事もおかゆを食べることができた。娘の動画を見せていろんな話をする。娘はどんな処置を受けているのか、口に入っている管は何のためのものか、足につながっているコードは何なのか、どんなリスクがあるのか、皮膚の色は、爪の形は、髪の毛は、唇は、動画に映っている全てのものが気になって仕方がないようだ。ただただ会いたいと繰り返している。

1800
朗報。妻が自分で歩けるようになったので、明日ドクターの許可が出れば外出して娘に会いに行けるかもしれない。手術の翌々日に外出することがリスクがないとは言えない。ただ、娘に会えないことに焦燥する一日は妻にとって長すぎる。精神面での疲労が心配なので私としてはぜひ会わせてあげたい。

1900
私は家に帰ることにする。娘や妻に比べれば私の疲れなど高が知れているが、今家族でまともに動くことができるのは私だけ。万が一にも体調を崩すわけにはいかない。

2018年9月2日
0830
妻とLINE。昨日に比べて元気が出たようだ。朝食も全部食べることができたと聞いてホッとする。妻にとっては二日ぶりのまともな食事だ。
私は自宅で、娘が生まれて以来全く手についていなかった洗濯、掃除などの家事をする。

0900
妻の着替えやタオルを用意する。

1000
妻からLINE。ドクターから外出許可が出たようだ。出産から二日後、ようやく妻が娘に会える!

1100
妻の病院に行く。
妻の様子が昨日とは全然違う、元気そうに見える。気力もある。娘に会えるということが何よりの薬になっているのは間違いない。

1300
昼食を食べて痛み止めを飲んだ妻。いよいよ娘のいる病院へ。ゆっくりゆっくり歩いて病院の入り口に向かう。思えば妻にとっては四日ぶりの外の空気。
タクシーで娘のいる病院へ。

1315
娘のいる病院に到着。なるべく妻の体力を消費しないために車椅子を借りる。面会の手続きをし、NICUの入り口で荷物を預け手の消毒をする。

1330
娘に会う。娘を一目見た途端泣き崩れる妻。娘を抱っこさせてもらい、絶えず娘に話しかけている。
娘は両手の点滴を外してもらっていた。まだ足には点滴があり、口には管が入っているが、だいぶ身軽になった。娘が身軽になる分安心できる。それに妻に娘の痛々しい姿を見せずに済んだ。

1400
娘をずっと抱っこしている妻。もちろん気持ちはわかるが妻の体力も万全ではない。少し交代することに。

1500
娘のオムツを替え、おしゃぶりで遊び、ミルクを飲ませる。元気そうな様子にとても安心する。
よかった。生まれてから少し時間がかかったけど、家族三人が一緒の場所に集まることができた。

1600
NICUを出る。面会していた2時間半はあっという間だった。妻が入院する病院に戻る。

1630
病院に戻り、無事に娘に会えたことを助産師さんたちに伝える。皆さん本当に喜んでくれた。

1900
しばらく妻と話した後、私は家に戻る。
妻は心身共に昨日に比べてかなり調子を取り戻している。元気そうな妻と娘を見ると私もとても安心できる。

これからの私の人生、妻と娘の存在が時に悩みの種となり、また、喜びの源となってゆくのだろう。
自分以外の存在に大きく左右される自分の人生。若い頃の自分ならそれをとても嫌悪していたに違いない。今はそれでいいと思うし、それがいいと思う。

2200
普段ならこの時間に床に就くことはないのだが、かなり疲れている。もう寝ることにする。

2018年9月3日
0800
妻から母乳が出たとのメッセージが来る。これを娘のところに持って行くことができる、これで娘の力になることができる、と本当に嬉しそうだ。

0900
妻は今日もまた娘のところへ行きたいと言う。体調も昨日よりいいし、外出許可ももらったとのこと。助産師さん、看護師さんたちには心配をかけてしまうが、やはり娘には合わせてあげたい。

1200
昼食を食べた後、外出の準備をする。

1300
タクシーに乗って娘のいる病院に向かう。

1330
受付で尋ねると、娘のいる病室が変わっている。もうNICUにいなくても良いと判断されたようだ。特に異常がないと言うことなのでとても安心する。

しかし、娘の様子が少し元気がないように見える。あまり反応がなく、昨日に比べるとすごく眠そうでぐったりしている。助産師さんに尋ねると、今日MRIの検査を行ったため、娘に眠り薬を投与する必要があったとのこと。そのためしばらくはぼーっとして眠い状態が続くらしい。少しかわいそうだが検査のためなので仕方がない。

そのことを妻に説明するも、かなり心配そうだ。

1430
新生児科の先生と話ができるらしい。娘の検査結果についてだろうか。

1500
娘の検査結果はすべて問題ないと先生が言ってくださった。しかも、明日には妻の入院している病院に転院できるとのこと!
これ以上嬉しいニュースはない。
眠そうな娘を見て心配そうだった妻も本当に嬉しそうだ。
日本語がうまくない妻のために、先生は紙に英語で書いて説明して下さった。二人で何度もお礼を言う。

明日の朝、私が娘を抱いて妻の入院する病院まで連れて行くという話でまとまった。責任重大だ。

1550
妻と病院に戻る。娘を残して帰るのは辛いが仕方ない。明日にはお母さんと一緒に居られるからな。

1600
まだ区役所は空いているだろうから出生届を出しに行くことに。

1630
17時に閉まる区役所の時間ギリギリに飛び込んでしまったが、とても丁寧に対応していただいた。
出生届に加えて、様々な補助制度の申し込みをする。
数日とはいえNICUに入院していた娘の治療費はどの程度になるのだろうか。ほとんど予想していなかった事態なので色々調べなくてはならない。

1900
妻からLINE。助産師さんから「明日赤ちゃんが戻って来たら、他の赤ちゃんたちとは違う部屋で生活しなければいけない。ミルクをあげるときも別室を用意する」と言われたそうだ。娘は何か重大な病気を持っているのではないか、まだ安心はできないのではないかと心配している。
※あとでわかった話だが、入院中一度でも屋外に出た赤ちゃんは万が一のため他の赤ちゃんから隔離しなければならない決まりがあるとのことだった。

2100
娘の退院用の服を用意する。妊娠中に妻と一緒に買いに行ったものだ。

2200
妻から携帯が壊れたと連絡。タッチスクリーンが思うように反応しないらしい。
明日で妻の入院から一週間になる。携帯まで壊れて、妻にとっては散々な一週間だったが、妻と赤ちゃんが頑張ったおかげでなんとかみんな無事だ。

2018年9月4日
0900
すごく大きな台風が近づいている。ただ、天候を見る限り、やや風はあるが雨も降っておらず外出は問題ないと思われる。

1000
昨日から用意していた、娘の服を再確認する。

1050
娘のいる病院に着く。娘は元気そうだ。体に繋がっていた全ての管やコードは外されている。点滴の跡が内出血していてとてもかわいそうだが、これ以上何かの薬を投与したり常に心拍などを監視しなくてもよいということは心から嬉しい。

1100
書類手続きを終えた後、娘の服を着替えさせる。私が手伝う初めての着替えだ。結構おとなしくしてくれている。

1115
助産師さん、看護師さんにお礼を言って部屋を出る。娘を診てくれた全ての人にお礼を言えないのがもどかしい。みなさん本当に本当にありがとうございました。大変お世話になりました。

娘を抱いて病院エントランスに向かう。いつもの歩く速さの3割くらいでゆーっくり歩く。生まれたての赤ちゃんを抱えて歩く男性の姿はとても珍しいのだろう、いろんな人の視線が集まっているのがわかる。怪しいものではありません。

タクシーに乗り、妻のいる病院に向かう。運転手さんに事情を話すと気を遣ってゆっくり運転してくださった。

1130
病院に到着。ゆっくり歩いて病室に向かう。娘はずっと起きているがとてもおとなしくしてくれている。お父さんと初めての外出はどうだったかな?

妻が病室の前で待っていた。娘を見て満面の笑み。娘と私の写真を撮っている。元気そうで良かった。

娘はすぐに新生児室に移動。話があった通り別の赤ちゃんとは違う部屋だ。大人がしばらくいると汗ばむくらい室温も高い。

1200
これまで大部屋に入院していた妻だが、個室が空いたので移れることになった。妻は娘におっぱいをあげているので、私が荷物の移動などを手伝う。

1230
妻が部屋に戻ってくる。個室になったことでかなり気持ち的にリフレッシュできるそうだ。
それに今日からいつでも娘に会いに行ける。この数日大変なことの連続で、気力も体力もかなり消耗していた妻だが、早く回復できることを願う。

1500
しばらく妻と話した後で私は家に帰る。

1900
妻から「夕食がすごく豪華になった!これが個室と大部屋の差か!」とLINEがあった。食事の内容が部屋によって変わるとは聞いていない。それは病院のサービスの一つで出産後のお祝い膳じゃない?と返すと「なんだ今日だけか。残念」と言っていた。

妻は確実に元気になっている。

2000
娘がたくさんおっぱいを飲んだと妻からLINE。とても嬉しい。

2230
再び娘がたくさんおっぱいを飲んだとLINE。妻もとても嬉しがっている。もちろん私も嬉しい。

2018年9月5日
0800
気がついたら寝ていた。私も多少疲れているが妻の疲れはその比ではない。昨日は3時間くらいしか寝れなかったそうだ。なるべく一緒にいるようにしよう。誰かが部屋にいて赤ちゃんを見ているだけでも安心できるだろう。

1100
面会時間は11時からなので、時間を待って病室へ行く。
妻の顔に疲れは見えるものの笑顔ではある。
昨日赤ちゃんが転院してきてから、3時間ごとに授乳をしている妻。覚悟はしていたが相当辛いようだ。ましてや手術後の体、慣れない授乳、赤ちゃんもまだ上手にミルクを飲むことができない。

1200
ミルクをあげるのを手伝う。その間だけでも妻には睡眠を取ってもらう。

1300
昼ごはんを食べる。病院の食堂にも慣れてきた。

1500
赤ちゃんがなかなかミルクを飲まないことに不安な妻。もちろん私も不安だが個人差のあることなので何とも言えない。助産師さんが笑顔で「大丈夫ですよ」と言ってくれることに少し安心する。

1600
娘の経過が順調なので、妻と同じ部屋に移ることになった。目の届く場所に娘がいればより安心するだろう。

1630
安心はできるものの、15分おきに娘が泣くので気の休まる暇がない。

1700
妻と娘が自宅に帰った時、色々と必要なものがあるため、私は一度買い物へ行くことに。

1830
妻からLINE。娘がなかなか泣き止まないとのこと。

1930
心配なのでまた病院に来た。娘は寝ていた。

2100
問題なさそうなので帰宅することに。妻も一通りしゃべったら少し楽になったようだ。

2018年9月6日
1000
妻から娘がしゃっくりしている動画が送られてくる。なかなかしゃっくりが止まらず大変そうな娘には悪いが、ものすごく可愛い。鳥の鳴き声みたいなしゃっくりだ。お腹の中にいるときからよくしゃっくりをしていたけど、こんなに可愛かったんだ。

1200
病院へ行く。

娘がなかなかおっぱいを飲まないらしい。妻も慣れていないけど娘もまだ飲み方がよくわからないのだろう。

1300
病院の食堂で昼ごはん。食べ応えのあるランチではないが、これだけ通っているとなんとなく健康になれそうな気がしてきた。

1500
沐浴指導を妻と一緒に受ける。ふにゃふにゃの赤ちゃんをお風呂に入れるのは結構怖い。妻は完全にビビっている。退院したら二人掛かりでお風呂に入れることになるだろう。

1900
結局丸一日病院にいた。妻は夜も授乳で満足に寝られていない。手術後の体にはさぞかし辛いことだろう。何ができるわけでもないが、私が赤ちゃんのそばにいるだけでも安心できるらしいので、なるべくここにいるようにしよう。

2018年9月7日
1100
妻に頼まれて赤ちゃんの爪切りを持って病院へ行く。赤ちゃんが自分の顔を引っ掻いているのが気になるようだ。

1200
いよいよ明日退院だ。退院の手続き、退院をした後の家での生活について、1ヶ月検診についてなどの説明を受ける。
娘が家にいるイメージがまだ持てない。

1300
妻は明日帰れることが待ち遠しくて仕方ない様子だ。思えば入院も10日目になる。病院の皆さんが良くしてくれるとはいえ、家での生活の方がリラックスできるのは間違いない。

1600
家に帰る。明日退院して家に帰ってくる妻と娘のために、部屋を掃除する。

2000
少し仕事をする。

2100
明日はきっと忙しくなる。今日はもう寝ることにする。

2018年9月8日
0900
病院に行く。病室に妻はいたが娘の姿はない。現在退院前の検診出そうだ。

1000
退院の手続きをする。
5日ほど個室を使ったのでそれなりの額を覚悟していたのだが、合計は438,000円。出産育児一時金を差し引いて自己負担額は18,000円。思ったよりも安く済んだ。
娘の保険証は未だ出来上がっていないので、後日乳児医療証と合わせて持ってくる必要がある。
※後日、娘の医療費を支払いに行ったところ、2つの病院合わせて13,000円ほどだった。費用のほとんどは保険と医療証(医療費助成)で賄うことができた。日本に住んでいて本当に良かった。

1100
娘の検診は特に問題がなかったようだ。安心した。娘は元気に動いている。数日前に手足が冷たくなるほど不安だった時から比べると本当に幸せだ。

1130
娘にミルクをあげておむつを替える。

1200
いよいよ退院だ。
土曜日のため助産師さんや看護師さんの数は多くない。本当ならお世話になった方みなさんにきちんとお礼を言いたい。

1215
タクシーに乗って自宅へ。

1240
自宅到着。初めての場所にキョトンとしている娘。
色々あったけど無事に3人で帰ってこれて本当に嬉しい。これから慣れない日々が続いて疲れ果てるだろうけど、喧嘩もするだろうけど、その度にこのメモを見て妻と娘がどれだけがんばったか、自分がどれだけ恵まれていたのかを再確認したいと思う。