どれほど翻訳アプリが進化しても、英語を勉強する必要がなくならない理由
Google翻訳を始めとする翻訳アプリは、日に日に精度を高めており、ぼくも様々な場面でお世話になっています。
数年前まで、機械翻訳はほとんど役に立たなかった記憶があるのですが、今では完璧な翻訳とはいえないまでも、それなりに長い文章でも意味が通じる程度には翻訳することができます。
このまま機械翻訳の精度が高まっていけば、いつか英語を勉強しなくてもよくなる日が来るんじゃないか?という気持ちが出てくるのも無理はありません。ぼくの周りでも英語の勉強はあきらめて、翻訳アプリの進化を心待ちにしている人がいたりします。
しかし、英語を勉強しなくてもよくなる日がくるか?という問いに対しては、半分正解で、半分間違っていると言えるでしょう。
機械翻訳の性能が今後向上するにつれて、
- 英語でのメールやチャット
- 英語で書かれた記事や論文の閲覧
- 海外旅行先での簡単なやりとり
などの場面では、非常に役に立つ可能性がありますが、
- 英語での会議
- 英語を話すクライアントとの交渉
など、主に会話を必要とするビジネスの場においては、この先どんなに翻訳アプリが進化したとしても役に立つことはないでしょう。
その理由を以下で解説します。
会話の流れを整理する
当然の話ではありますが、会話は時間軸上で進行します。
例えば、AさんとBさんが同じ言語で話したときを例にとって見てみましょう。
まず、AさんがBさんに話しかけます。
それを受けて、Bさんが返答します。
Bさんの返答を受けて、Aさんが返答します。
以上が、同じ言語同士で会話をした場合の流れとなります。当然ですが何の問題もなく会話は進行します。
翻訳ツールを使った会話の場合
では、母国語が違う人の会話、例えばAさんは日本語が話せる、Bさんは英語が話せる、といった場合に、間に翻訳ツールを挟んで会話をした場合はどうなるでしょうか?
(ここでは、翻訳ツールの精度は完璧なもの、つまり100%正しく相手に意図を伝えられるものとします)
先ほどと同じようにAさんが話しかけます。
Bさんは日本語がわからないため、翻訳ツールが日本語から英語に翻訳を行います。
Bさんが翻訳結果を見て(または聞いて)、Aさんの言ったことを理解します。
BさんがAさんに返答し、同様に翻訳ツールが英語から日本語に翻訳を行います。
Aさんが翻訳結果を確認して、Bさんの言ったことを理解し、返答します。
以上からわかるように、翻訳ツールを間に挟むことで、(同言語での会話と比べて)翻訳を行う時間と翻訳された結果を確認する時間が新たに生じます。
翻訳ツールが進化するに伴って、翻訳を行う時間が短縮される可能性はありますが、翻訳された結果を確認し理解する時間は、人間が行う作業のため基本的に短縮できません。
なお、先ほどの同言語での会話の場合でも、相手が言っていることを理解する時間は当然存在します。
しかし、翻訳ツールを使った場合と大きく違うのは、相手が話している最中に会話を理解する作業を始めることができるという点です。
翻訳ツールを使った場合は、話をしている途中に翻訳を始めることはできません。なぜなら、言語が異なる場合、文法や語順が異なることが一般的なため、文章をすべて取得し終えた後でないと、翻訳ツールは正しく翻訳ができないためです。
さて、時間はかかるものの、一対一の会話では翻訳ツールを使うことで異なる言語の間でも会話をすることができました。
次に、複数人での会話を見ていきましょう。
複数人での会話の場合
先ほどのAさん、Bさんの会話に、Cさんにも加わってもらいましょう。
Cさんは英語を話すことができます。
BさんとCさんは英語が話せますので、以下のような流れで会話をすることができます。
この会話にAさんが翻訳ツールを使って参加しようとした場合どうなるでしょうか?
以下のように、Bさんが話した内容を翻訳ツールが日本語に翻訳し、その結果をAさんが確認する、といった流れになります。
しかし、先ほどの一対一での会話と違い、Aさんが翻訳された結果を確認し、内容を理解した頃には、BさんとCさんの会話は先に進んでしまっているのです。
これではAさんは、BさんとCさんが何を言っているのかは理解できても、会話に参加することができません。
会話についていくことができず、自分の意見を途中に挟めないということは、ビジネスの場において計り知れないデメリットがあります。
そのため、どれほど機械翻訳の技術が向上し、瞬時にかつ正確に翻訳ができたとしても、ビジネスの場面で翻訳アプリなどが活用されることはありません。それ故に、英語を勉強しなくてもよいことにはなりません。
しかし、冒頭に書いたような文章の翻訳や、海外旅行などでの簡単な会話で重宝されることは間違いありません。機械翻訳の発達によって人類は多大な恩恵を受けることになるでしょう。
そんな世の中になった時、中途半端に英語を勉強する人は減るかもしれませんので、英語に堪能であるというスキルが今以上に有効になる時代がひょっとしたらくるかもしれません。